雲隠
ちょっとだけ、思い出話を。
引っ越して来る前に住んでいたマンションの近くに建っていたビルの駐車場。
そこに、一匹の雌猫が、ちょくちょく、のたくってました。
蛇じゃ、あるまいに。
でも、ホント、まさに、『のたくる』って表現が相応しいほど、のたのた、ゴロゴロ、気儘に暮らしていたのです。
ね?
こんな具合に。
まあ、でも、蛇と表現するには、ちょっとばかし、『寸詰まり』ですな。
こんなナリだから、ケッコウ、人気があって、相当な数のファンから、エサをもらっていたようです。
それがまた、肥える原因にも、なりましたのでしょう。
ぐふふふふ。
おっ、笑っとる、笑っとる。
確かに、かあいい。
私たちは、エサこそやりませんでしたが、彼女を《ウッシー》と名付けて(失礼なっ!!)、密かに、お慕い申し上げておりました。
ふと、《ウッシー》を見かけなくなったなぁ、と気づいたのは、いつ頃のことでしたか。
初夏の頃か、春先だったか。
まあ、そのうち、ヒョイと現れるだろう。
そう思って、何度も何度も、
雨の日も、晴れの日も、曇りの日も、
駐車場を通りかかるたびに、その姿を探しましたが、
彼女は、
二度と、
私たちの前に現れることは、
ありませんでした。
その後、私たちも、彼女がのたくっていた駐車場からほど近いマンションから、
姿を消します。
生生流転。